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2021.07.23

「母子手帳」を渡されて

この3月末で長く勤めた公立高校を定年退職し、ご縁をいただいて4月から愛知みずほ短期大学に勤務させていただいています。新しい環境にまだ慣れないでいる4月のある日、母が一人で暮らす実家を訪れたところ、小さな紙袋に入った3冊の冊子を渡されました。そのうち2冊は私が通っていた幼稚園の連絡帳で、出欠票なども兼ねたものでした。残る1冊は、何枚もの予防接種済証などがはさみこまれた母子手帳でした。母が言うには、終活のために片付けをしていたら出てきたから、自分で持ち帰るようにとのことです。母は私の二回り上なので84歳です。私はここぞとばかり「母子手帳の生みの親はみずほ短大の第2代学長である」という最近仕入れたばかりの知識を、得意気に話して聞かせました。息子の再就職先に対して誇りを感じてもらいたいと願ってのことですが、母はどう思ったでしょうか。

そんなことがあった数日後、「『私の母子健康手帳』寄稿のお願い」という職員向けの文書がレターケースに入れられていて驚きました。またしても思いがけない偶然が起こったように感じたのです。「またしても」というのは、このところ自分の身の上にいろいろな偶然を感じていたからです。自分の新しい勤務先が、6年前に亡くなった父がその昔勤めていた大学と同じ瑞穂区にある短大であったという偶然。そしてみずほ短大には30年近く前に父がその大学でお世話になった先生が勤めていらっしゃって、私に声をかけてくださったという偶然。何も知らなかった母が、このタイミングで私に母子手帳を渡したという偶然。それらの偶然に加えて、母子手帳についての寄稿の依頼があったことから受けた実感です。自分にとっての人生の転機が、何か大きな力に導かれたものであるかのように感じました。

さて、自分自身の母子手帳を見るのはこれが初めてのことです。私が生まれる前年に始まり、出産直後やその後数年にわたる記録を見て、大切に育てられたことを再認識しました。また、60年もの間、大事にしまっておいてくれた母への感謝を実感するとともに、この手帳は誰にとってもそれだけの価値があるものなのだということを痛感させられました。しかし、私が一番驚いたことは、実はもっとほかにあったのです。それは手帳の表紙をめくって児童憲章が印刷されたその右のページ、紛れもなく父の筆跡で書かれた「子の氏名」「子の保護者氏名・年齢・職業・本籍」などの文字が、なんと達筆であるか、ということでした。父の年齢は31歳とあります。今の自分の半分ほどの年齢で、これほど美しく整った文字を書いていたのかと驚き、これはとてもかなわないと感じてしまいました。

母の偉大さとともに、父の偉大さをも教えてくれた母子手帳を、今後は自分の手で大切に保管していこうと、思いを新たにしているところです。そして母子手帳と大きな関わりを持つ職場で働けることへの感謝と誇りを決して忘れないように、この文章を書き記しました。

(短大職員)

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